2026.09.07

産後の腰痛に骨盤矯正は必要?「骨盤の歪み」だけでは説明できない身体の変化

カテゴリ: 健康通信
産後の腰痛に骨盤矯正は必要?「骨盤の歪み」だけでは説明できない身体の変化

「出産してから、それまでなかった腰痛を感じるようになった。」
「抱っこや授乳をしていると腰がつらく、長時間座っているのも苦痛になってきた。」
「産後だから、骨盤が歪んでいるのではないかと気になっている。」

妊娠中には腰痛をほとんど感じていなかったのに、出産後から腰がつらくなる。そんな経験をすると、「出産で骨盤が開いたからではないか」「骨盤が歪んだまま戻っていないのではないか」と考える方もいるでしょう。実際、「産後の腰痛」について調べると、「産後の骨盤矯正」という言葉を目にする機会は少なくありません。

しかし、妊娠から出産にかけて起こる身体の変化を、単純に「骨盤が歪んだ」という一言で捉えることはできません。妊娠中の身体は、お腹が大きくなるにつれて重心や身体の使い方を変化させ、出産に向けて骨盤周辺の関節や靱帯を含めた身体にもさまざまな変化が起こります。これらは異常というより、妊娠・出産という大きな環境変化へ身体が対応してきた過程でもあります。

そして、出産した瞬間に身体のすべてが妊娠前の状態へ戻るわけではありません。産後の身体はそこから回復していく一方で、休んでいるだけではいられません。赤ちゃんを抱き上げる、授乳する、おむつを替える、夜中に何度も起きるなど、それまでの生活にはなかった新しい負担が一気に加わります。

ここに産後の腰痛を考える難しさがあります。身体は妊娠・出産による大きな変化から回復している途中でありながら、同時に「育児をする身体」へも適応していかなければならないからです。腰へ加わる力だけではなく、睡眠や休息、身体活動、抱っこや授乳など、一日の過ごし方そのものが妊娠前とは大きく変化しています。

だからこそ、産後に腰痛が現れたという事実だけから「骨盤が歪んでいる」と判断し、外から骨盤を妊娠前の位置へ戻せばよいと考えることには注意が必要です。そもそも産後の身体にとって何が「正しい骨盤の位置」なのかを、見た目の左右差だけで決めることもできません。

これは、「産後の骨盤矯正」という名称の施術を一律に否定するという話でもありません。同じ名称であっても、実際に何を目的として、どのような評価や施術を行っているのかは施設によって異なります。大切なのは、「産後だから」「腰痛があるから」という理由だけで施術方法を先に決めるのではなく、その人の身体が現在どのような状態にあるのかを確認することです。

また、産後の腰痛の中には医療機関での評価が必要なものもあります。強い痛みが急激に現れた場合や、発熱、脚の著しい筋力低下、排尿・排便の異常などを伴う場合には、「出産後だから仕方がない」と自己判断せず、医療機関を受診することが重要です。

一方で、医療機関で大きな異常は確認されていないものの、抱っこや授乳、仕事への復帰などをきっかけに腰痛を繰り返している方もいます。藤沢周辺で産後の腰痛に悩んでいる方にとっても、「骨盤が歪んでいるかどうか」だけではなく、妊娠から出産、そして育児へと生活が大きく変化する中で、自分の身体に何が起きているのかを知ることは大切です。

産後の身体は、「壊れたものを元へ戻す」というよりも、大きな変化を経験したあとも新しい生活へ対応し続けている身体です。その視点を持つと、産後の腰痛も「骨盤の歪み」という一つの言葉だけではなく、身体の構造や動き、回復、そして環境への適応という、より広い視点から考えられるようになります。

このコラムでは、産後に起こる腰痛について、妊娠から出産にかけて身体に起こる変化と、「産後だから骨盤矯正」という考え方だけでは捉えきれない大切な視点について解説していきます。

■妊娠から出産にかけて、腰や骨盤にはどのような変化が起こるのでしょうか?

妊娠中の身体は、お腹が大きくなるという見た目の変化だけではなく、赤ちゃんの成長に合わせて全身の使い方を少しずつ変化させています。妊娠前と同じように立っているつもりでも、身体の前方にかかる重さが増えていくため、その変化に対応しながら姿勢や動きを調整する必要があります。

腰椎と骨盤は、それぞれが独立して動いているわけではありません。立つ、歩く、座る、身体をかがめるといった日常動作では、腰椎、骨盤、股関節などが連動して身体を支えています。妊娠によって腹部の大きさや重さが変化すれば、この連動の仕方にも妊娠前とは異なる調整が必要になります。

さらに妊娠中は、出産へ向けた生理的な変化の一つとして、リラキシンなどのホルモンが関節や靱帯に影響を与えます。これは「骨盤が壊れた」「骨盤が異常に歪んだ」ということではなく、妊娠・出産に伴って起こる身体の変化です。骨盤周辺だけを切り離して考えるのではなく、身体全体が妊娠という環境へ適応している過程として捉えることが大切です。

そして、赤ちゃんを出産すれば、その瞬間に身体が妊娠前の状態へ戻るわけではありません。妊娠中に変化した腹部や骨盤周辺の状態、身体の使い方などは、産後の回復過程の中で徐々に変化していきます。その一方で、産後は身体を十分に休ませてから元の生活へ戻れるとは限りません。出産直後から、赤ちゃんを育てるという新しい生活が始まります。

たとえば、床やベッドから赤ちゃんを抱き上げる動作では、腰椎や骨盤だけではなく、股関節や膝、体幹、上肢まで使って身体を支えます。授乳では一定の姿勢を続ける時間が増え、おむつ替えでは前かがみになることもあります。さらに抱っこでは、赤ちゃんの成長とともに支える重さも変化していきます。こうした動作を一度だけではなく、一日の中で何度も繰り返すことが産後の生活の特徴です。

ここで重要なのは、これらの動作そのものを「腰に悪い動作」と決めつけないことです。抱っこも授乳も育児には必要な動作であり、人間の身体には本来、さまざまな姿勢や負荷に対応する能力があります。同じように育児をしていても腰痛を感じる人と感じない人がいることからも、「前かがみだから腰痛になる」「抱っこをしているから腰痛になる」という一つの原因だけでは説明できません。

また、産後は夜間の授乳などによって睡眠が細切れになりやすく、自分の都合だけで休息時間を決めることも難しくなります。身体の回復には活動だけではなく休息も関係しているため、妊娠・出産による大きな変化から回復していく時期と、新しい育児動作や生活リズムへ対応する時期が同時に進んでいることも、産後の身体を考えるうえで重要なポイントです。

つまり産後の腰痛は、「出産で骨盤が歪んだから」という一つの説明だけで捉えるよりも、妊娠中から続いてきた身体の変化、腰椎・骨盤・股関節などの連動、産後の回復過程、育児による新しい身体の使い方、休息の変化などが重なる時期に現れた腰痛として考える必要があります。

だからこそ、産後に腰痛を感じたときに確認したいのは、骨盤が見た目として妊娠前の位置に戻っているかどうかだけではありません。大きな環境の変化を経験した身体が、現在の生活の中でどのように機能しているのかを見ることが重要になります。

では、身体はこうした妊娠・出産・育児による変化を、どのように感じ取りながら対応しているのでしょうか。産後の身体を「骨盤を元へ戻す」という考え方だけで捉えきれない理由を理解するには、身体の状態を絶えず把握し、動きや姿勢を調整している仕組みに目を向ける必要があります。

■「骨盤の位置」よりも、産後の身体で確認したいことは何でしょうか?

「骨盤が歪んでいる」「骨盤が開いている」と聞くと、左右の骨が本来あるべき位置からずれてしまい、それを外から押したり動かしたりして正しい場所へ戻す必要があるように感じるかもしれません。しかし、実際の骨盤は一枚の骨ではありません。左右の寛骨と仙骨などから構成され、仙腸関節や恥骨結合を介してつながりながら、腰椎や股関節とも連動して身体を支えています。

立っているとき、歩いているとき、椅子から立ち上がるとき、赤ちゃんを抱き上げるときでは、身体にかかる力も骨盤周辺に求められる働きも同じではありません。つまり骨盤は、常に一つの決められた形を保つだけの構造ではなく、身体全体の動きの中で役割を果たしています。そのため、見た目の左右差や姿勢だけを確認して、それだけで腰痛の原因や身体の機能を判断することはできません。

産後であれば、なおさら「妊娠前と同じ位置へ戻っているか」だけを見ることには限界があります。妊娠中には重心や身体の使い方が変化し、出産後には抱っこや授乳といった新しい動作が加わります。身体に求められていること自体が妊娠前とは変わっているため、重要なのは過去の形へ戻すことではなく、現在の生活の中で身体が必要な動きや姿勢をどのように調整できているかという視点です。

この調整には神経の働きが深く関わっています。私たちは立ったり歩いたりするときに、「今、骨盤を何度傾けて、この筋肉を何%働かせよう」と一つひとつ意識しているわけではありません。筋肉や関節などから送られてくる身体の位置や動きに関する情報を神経系が受け取り、その情報をもとに姿勢や筋活動を絶えず調整しています。

たとえば赤ちゃんを抱き上げるときには、腕だけを動かしているわけではありません。足元で身体を支えながら、股関節や骨盤、腰椎、胸郭、肩などが連動し、その瞬間の重さや身体の位置に合わせて全身の筋活動が調整されます。毎回まったく同じ姿勢で抱き上げるわけではないからこそ、身体にはその都度状況を感じ取り、必要な動きを選択する働きが求められます。

カイロプラクティックでは、このような身体と脳との情報交換に着目します。前田カイロプラクティック藤沢院では、産後であることや腰痛があることだけを理由に「骨盤を矯正する」という方法を先に決めるのではなく、視診、静的触診、動的触診、体表温度測定、レントゲン評価など複数の検査を組み合わせながら、その人の身体が現在どのように機能しているのかを評価しています。

そして、脳と身体との情報交換を妨げている状態を、カイロプラクティックでは「サブラクセーション(神経伝達の阻害)」と捉えます。どこに痛みがあるのか、骨盤が左右対称に見えるかといった一つの情報だけではなく、複数の検査結果を照らし合わせながらサブラクセーションを見極め、本当に必要と判断した箇所だけにアジャストメントを行います。

アジャストメントの目的は、産後の骨盤を妊娠前の形へ押し戻すことでも、腰痛という症状を直接取り除くことでもありません。神経機能を妨げているサブラクセーションに対して適切な入力を行い、身体と脳との情報交換がより適切に行われる環境を整えることで、その人自身が持っている「治るチカラ」が十分に発揮できる状態を目指します。

産後の身体を見るときに大切なのは、「骨盤は正しい位置にあるのか」という一つの問いだけではありません。妊娠、出産、育児という大きな変化を経験した身体が、現在の生活の中でどのように動き、支え、適応しているのか。その機能を一人ひとり詳しく確認していくことが、産後の腰痛を考えるうえで重要な視点になります。

■産後の骨盤矯正を受けた直後から腰痛が悪化した30代女性の症例

今回ご紹介するのは、出産後から初めて腰痛を感じるようになった30代女性です。社会人になってから約10年間デスクワークを続けていましたが、それまで腰痛を経験することはほとんどなく、妊娠中も出産直前まで大きな問題なく仕事を続けていました。

ところが出産後、赤ちゃんの抱っこや授乳など育児中心の生活が始まると、少しずつ腰の重さを感じるようになりました。やがて起き上がるときや赤ちゃんを抱き上げるときにも腰が痛むようになり、仕事へ復帰してからは、以前なら問題のなかったデスクワークでも長時間座っていることがつらくなっていきました。

整形外科を受診して湿布を処方されたものの大きな変化がみられなかったため、「産後の骨盤矯正」という看板を見たことをきっかけに整体へ通いました。そこでマッサージを受けた後、横向きの状態で腰を強く捻る施術を受けたところ、施術直後から立つことが難しいほど腰痛が強くなりました。「好転反応」と説明されましたが、その後も痛みは治まらず、座っていることさえ難しい状態となり、身体を詳しく検査してくれるところを探して前田カイロプラクティック藤沢院へ来院されました。

当院では、「産後だから骨盤を矯正する」「腰が痛いから腰を動かす」と施術方法を先に決めるのではなく、視診、静的触診、動的触診、体表温度測定、レントゲン評価など複数の検査を行いました。骨盤周辺の動きや筋緊張、周囲組織の状態なども含めて身体を評価し、それぞれの検査結果を照らし合わせながらサブラクセーションを見極め、必要と判断した箇所へアジャストメントを行っていきました。

カイロプラクティック・ケアを継続する中で、座っているときの腰の重だるさや、赤ちゃんを抱き上げる際の鋭い痛みに徐々に変化がみられました。その後はデスクワーク中に腰を気にすることも少なくなり、赤ちゃんを抱きかかえる際にも腰痛をほとんど意識せず生活できるようになっていきました。

この女性が受けた施術後に腰痛が悪化したという事実だけから、「産後の骨盤矯正は危険」「骨盤矯正を受けると腰痛が悪化する」と一般化することはできません。今回注目したいのは、骨盤矯正という名称そのものではなく、産後という理由だけで身体の状態を決めつけず、施術を行う前にその人の身体を詳しく評価することの重要性です。

妊娠前には腰痛がなかった人であっても、妊娠、出産、育児を通して身体を取り巻く環境は大きく変化します。そのとき必要なのは、「開いた骨盤を元へ戻す」という一つの考え方に身体を当てはめることではなく、現在の身体がどのような状態にあり、どのように機能しているのかを一人ひとり確認することです。

この女性に実際にどのような検査所見が確認され、座っていることさえ難しかった腰痛がその後どのような経過をたどったのか。詳しい検査結果やケアの経過については、実際の症例報告でご紹介しています。

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前田 一真

執筆者前田 一真

神奈川県藤沢市出身。1972年に塩川満章D.C.が銀座に開院した塩川カイロプラクティックに内弟子として入り、塩川満章D.C.と塩川雅士D.C.に師事。副院長まで務める。
また日本で最も歴史あるカイロプラクティック学校シオカワスクールでは現役講師を務め、後任の育成にも力を入れている。
2023年5月、カイロプラクティックの最前線である塩川カイロプラクティックで学んだ本物のカイロプラクティックを提供する院として、地元である藤沢の地で「前田カイロプラクティック藤沢院」を開院。

シオカワグループの一員として、インサイドアウトの健康文化を日本に根付かせるため、一人でも多くの人にカイロプラクティックの持つ無限の価値を知っていただくことを使命とし、感謝・感動・希望に溢れる社会の実現を目指している。

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