腰痛で立ち上がるのもつらいのはなぜ?家事や歩行まで困難になる原因とは
「立ち上がったら、また腰が痛むかもしれない。」
一度でも椅子から立ち上がる瞬間に強い腰痛を経験すると、次に同じ動作をするときには、痛みが出る前から身体をかばうようになることがあります。机に手をついて立ち上がったり、腰をできるだけ動かさないようにしたり、いつもよりゆっくり身体を起こしたりする。こうした反応は、痛みを経験した身体にとって決して不自然なものではありません。
痛みには、身体に起きている異常や危険を知らせ、さらなる負担から身体を守るための警告サインとしての役割があります。そのため、腰に強い痛みを感じたときに動きを止めたり、痛みが出た動作を避けたりすることは、身体を守るうえで必要な場合があります。
ところが、腰痛が長く続くようになると、「痛みを避ける」という反応が日常のさまざまな動作にまで広がっていくことがあります。最初は立ち上がるときだけ腰をかばっていたのが、やがて掃除や洗濯をするときにも慎重になり、歩く距離を短くし、買い物や散歩まで控えるようになる。腰痛によって生活の中から少しずつ「できること」が減っていくことがあります。
ここで興味深いのは、人間の身体は実際に痛みが出てから反応しているだけではないということです。私たちは過去の経験をもとに、「この動きをすると痛みそうだ」と予測しながら身体を動かしています。以前痛かった動作では、同じ痛みを避けようとして筋肉を緊張させたり、動く速度を変えたり、別の動き方を選んだりすることがあります。
つまり、椅子から立ち上がるという何気ない動作一つにも、「腰の筋肉がどれだけ強いか」「関節がどれだけ動くか」という要素だけではなく、身体がその動作をどのように感じ、どのような動き方を選択しているのかという側面があります。
だからといって、腰痛を「怖がっているだけ」と考えることは適切ではありません。突然の激しい腰痛や足の著しい筋力低下・麻痺、排尿・排便の異常、発熱などを伴う場合には、速やかに医療機関で評価を受ける必要があります。また、強い痛みが出ている時期には、身体の状態に応じて休息が必要になる場合もあります。
一方で、医学的に緊急性の高い問題は確認されていないにもかかわらず、「また痛くなるのではないか」という不安から身体を動かす機会が減り、以前より家事や歩行が難しくなっているのであれば、痛みのある腰だけではなく、身体の動かし方そのものにも目を向ける必要があります。
藤沢で慢性的な腰痛に悩んでいる方の中にも、腰を守ろうとして家事や外出を控えているうちに、「以前より身体を動かしにくくなった」と感じている方がいるかもしれません。痛みから身体を守ることと、身体をまったく使わなくなることは同じではありません。
慢性的な腰痛によって日常生活まで制限されるようになった身体では、何が起きているのでしょうか。
このコラムでは、腰痛によって立ち上がることや家事、歩行までつらくなる背景について、痛みから身体を守る仕組みや動作が変化していく理由、そして腰痛によって生活範囲が狭くなった身体を考えるうえで大切な視点について解説していきます。
■腰痛があると、なぜ身体は「かばう動き」を覚えていくのでしょうか?
腰痛があるとき、身体はいつも通りに動こうとしているわけではありません。椅子から立ち上がる、床の物を拾う、身体をひねるといった動作で痛みを感じると、その経験を避けるように姿勢や動き方を変えることがあります。これは身体を守るための自然な反応の一つです。
たとえば、立ち上がる瞬間に腰へ痛みが走った経験があると、次に立ち上がるときには無意識のうちに腰を固めたり、手をついて身体を支えたり、動作をゆっくり行ったりすることがあります。痛みが出そうな方向への動きを避け、できるだけ負担が少なそうな方法を選ぼうとするのです。
このように、身体は痛みを感じた経験をもとに、次の動作を変えていきます。痛みがある場所を守るために別の筋肉を強く働かせたり、関節の動く範囲を小さくしたりすることで、その場では動作を続けやすくなる場合があります。
ただし、こうした「かばう動き」が長く続くと、身体の使い方そのものが変わっていくことがあります。腰を動かさないようにするために股関節や膝へ動きを任せたり、左右どちらかへ体重を偏らせたり、歩幅を小さくしたりするなど、もともとは一時的だった工夫が日常的な動き方になることがあります。
人間の身体は、一つの関節だけで動いているわけではありません。椅子から立ち上がるときには、上半身を前方へ移動させながら足へ体重を乗せ、股関節や膝を伸ばし、骨盤や腰部の位置を調整して身体を持ち上げます。腰をかばってこの一連の動作のどこかを小さくすれば、その分を別の関節や筋肉が補う必要があります。
家事でも同じです。掃除機をかけるときには前後へ体重を移動させ、洗濯物を干すときには腕を上げながら姿勢を保ち、料理では立った状態で身体を細かく動かし続けます。腰痛があることで動きを避けたり、身体を固めたままこれらの動作を繰り返したりすると、身体全体の動き方にも影響が及びます。
さらに、痛みを何度も経験すると、実際に痛みが出る前から身体を緊張させることがあります。「この動きをすると痛いかもしれない」と予測すると、身体はあらかじめ動きを小さくしたり、筋肉を強く緊張させたりして、痛みに備えようとすることがあります。
ここで重要なのは、痛みを避けること自体が悪いわけではないということです。強い痛みがあるときに身体を守ろうとするのは必要な反応です。しかし、その反応が長期間続き、痛みが出ていない動作まで避けるようになると、身体を動かす機会そのものが減っていくことがあります。
活動量が減れば、筋力や体力だけでなく、「この動作なら安全にできる」という経験を積む機会も少なくなります。その結果、以前なら普通にできていた立ち上がりや歩行、家事などに対しても慎重になり、さらに身体を動かす範囲が小さくなることがあります。
つまり慢性的な腰痛では、「腰が痛い」という感覚だけではなく、その痛みを経験したことで身体がどのような動き方を選ぶようになったのかを見ることも大切です。かばうこと、固めること、動きを避けることは、身体が自分を守ろうとする反応です。
では、その身体は何をもとに「この動きは危ない」「この動きなら大丈夫」と判断し、筋肉の緊張や動作の大きさを変えているのでしょうか。次の章では、痛みと動作をつなぐ神経系の働きという視点から、慢性的な腰痛についてさらに掘り下げていきます。
■「痛くなりそう」という予測は、なぜ身体の動きまで変えるのでしょうか?
私たちは身体を動かすとき、実際に痛みが起きてから初めて反応しているわけではありません。椅子から立ち上がる、床の物を拾う、階段を上るといった日常動作でも、身体から入ってくる感覚とこれまでの経験をもとに、次に必要となる動きを予測しながら姿勢や筋肉の働きを調整しています。
たとえば、何度も立ち上がる瞬間に腰痛を経験していると、椅子から腰を浮かせる前から「また痛むかもしれない」と感じることがあります。すると、腰まわりの筋肉をあらかじめ緊張させたり、動作の速度を落としたり、手を使って身体を支えたりすることがあります。実際に痛みが出る前から身体の動きが変わるのは、過去の経験を利用して身体を守ろうとしているからです。
そもそも痛みは、身体の組織から送られてきた情報だけで単純に決まるものではありません。身体に加わった刺激に関する情報は神経を介して中枢神経系へ伝えられますが、そこで過去の経験や現在置かれている状況など、さまざまな情報とともに処理されます。そのため、痛みの強さと画像上の変化や組織の状態が、必ずしも一対一で一致するわけではありません。
これは、「痛みは気のせい」という意味ではありません。痛みは本人が実際に経験している感覚であり、身体を守るためにも重要です。一方で、慢性的な腰痛を理解するためには、痛みを単に「腰の組織が傷んでいる量を知らせるもの」とだけ考えず、神経系が身体から得られる情報をどのように受け取り、その状況にどのように対応しているのかという視点も必要になります。
身体を動かすためにも、神経系は重要な役割を担っています。関節の位置や動き、筋肉の状態、身体の傾き、足裏に加わる力などの情報が絶えず神経を介して伝えられ、それらをもとに筋肉の働きや姿勢が調整されています。私たちが立ち上がるたびに「まずこの筋肉を動かして、次にこの関節を動かす」と考えなくても動作できるのは、こうした情報交換が繰り返されているからです。
そのため、腰痛によって身体をかばう状態が続いているときには、「どこが痛いのか」だけではなく、「身体が現在どのような情報を受け取り、それに対してどのような反応を選択しているのか」という見方もできます。腰を固めることも、動作を小さくすることも、身体がその時点で安全だと判断した方法で動こうとしている結果と考えることができます。
カイロプラクティックでは、こうした身体の調整に関わる神経機能を重要視しています。前田カイロプラクティック藤沢院では、脳と身体との神経伝達を阻害している状態を「サブラクセーション(神経伝達の阻害)」と捉えています。そのため、「腰痛があるから腰の痛い場所をアジャストメントする」という症状だけを基準にした判断は行いません。
視診、静的触診、動的触診、体表温度測定、レントゲン評価など、それぞれ異なる検査から得られる情報を照らし合わせながら、その人の身体を評価していきます。痛みの場所だけを追いかけるのではなく、関節の動きや筋緊張、神経機能に関連する所見、身体の構造などを総合してサブラクセーションを見極めることが重要になります。
アジャストメントの目的も、「この動きは怖くない」と本人へ言い聞かせたり、腰痛という感覚そのものを直接消したりすることではありません。サブラクセーションを取り除くことで脳と身体との情報交換が適切に行われる環境を整え、その人自身の身体が現在の状態を把握し、状況に応じて適切に調整できる状態を目指します。
人間の身体には、変化する環境へ適応し、自らの状態を保ちながら回復へ向かおうとする「治るチカラ」が備わっています。腰痛を経験した身体が自分を守ろうとすることも、その働きと切り離して考える必要はありません。だからこそ、「かばう動き」を単純に悪い癖として取り除こうとするのではなく、その人の身体がなぜその動きを必要としているのかを見ることが大切です。
慢性的な腰痛によって家事や歩行まで難しくなっている場合、問題は「痛みが何点あるか」だけでは捉えきれません。以前なら何も考えずにできていた立ち上がりや掃除、散歩などを、身体がどのように感じ、どのような動き方を選ぶようになっているのか。痛みと身体機能の両方を見ることで、長引く腰痛を考える視点は大きく広がります。
■腰痛への不安から、家事や外出まで避けるようになっていた70代女性の症例
今回ご紹介するのは、数年前から腰の重だるさを感じていた70代の女性です。当初は家事や買い物などを問題なく行えていましたが、次第に椅子から立ち上がる瞬間や洗濯物を干すときに腰痛を感じるようになり、朝の起き上がりや長時間の立ち仕事もつらくなっていきました。
痛みが出るたびに「動かさなければ痛まないだろう」と考え、徐々に身体を動かす機会を減らしていきました。しかし、休む時間を増やしても腰の重さや身体の硬さは気になり、料理や掃除といった日常の家事にも支障が出るようになりました。さらに「また痛くなるのではないか」という不安から外出する機会も減り、それまで楽しんでいた散歩やガーデニングからも遠ざかっていました。
整形外科では加齢による腰部の変化や筋力低下を指摘され、痛み止めや湿布を使用していました。その後もさまざまな方法を試しましたが、腰痛によって生活を制限する状態が続き、「歳だから仕方がないのかもしれない」と感じていたところ、娘さんから紹介され前田カイロプラクティック藤沢院へ来院されました。
当院では、「腰が痛い」「高齢だから筋力が落ちている」という情報だけから身体を判断したわけではありません。複数の検査を組み合わせて確認すると、骨盤や腰部の関節の動き、筋肉や周囲組織の状態、体表温度などに確認すべき所見がみられ、レントゲン評価でも長期間にわたる構造的な変化が確認されていました。
こうした所見を一つずつ切り離して考えるのではなく、複数の検査結果を照らし合わせながらサブラクセーションを見極め、身体の状態に応じて必要と判断した箇所へアジャストメントを行っていきました。
ケアを継続する中で、まず身体を動かし始めるときの硬さや不安に変化がみられ、少しずつ家事を行える時間が増えていきました。その後は、それまで避けるようになっていた外出にも変化が現れ、以前楽しんでいた活動を再び行えるようになっていきました。
この女性の場合、画像上で確認されていた長期間の構造的な変化そのものがなくなったわけではありません。また、年齢や生活環境が変わったわけでもありません。それでも、腰痛を経験するたびに身体を動かす範囲を狭めていた状態から、再び日常の動作や活動へ戻っていく変化がみられました。
これは、「腰痛があっても怖がらずに動けばいい」という意味ではありません。身体を守るために動きを避ける必要がある場合もあります。カイロプラクティックでは、痛みを無視して無理に身体を動かすことを目的とするのではなく、検査によってその人の身体の状態を評価し、神経機能を妨げているサブラクセーションを見極めていきます。
今回の症例では、腰痛の強さだけではなく、痛みを経験する中で家事や散歩などの生活範囲まで狭くなっていたことも、その人の身体を考えるうえで大切な情報でした。腰痛がどのように始まり、身体には実際にどのような検査所見が確認され、どのような経過を経て再び家事や外出を行えるようになったのか。詳しい内容については、実際の症例報告でご紹介しています。
▶腰痛で家事もままならず、立ち上がることさえつらくなった詳しい症例報告はこちら
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執筆者前田 一真
神奈川県藤沢市出身。1972年に塩川満章D.C.が銀座に開院した塩川カイロプラクティックに内弟子として入り、塩川満章D.C.と塩川雅士D.C.に師事。副院長まで務める。
また日本で最も歴史あるカイロプラクティック学校シオカワスクールでは現役講師を務め、後任の育成にも力を入れている。
2023年5月、カイロプラクティックの最前線である塩川カイロプラクティックで学んだ本物のカイロプラクティックを提供する院として、地元である藤沢の地で「前田カイロプラクティック藤沢院」を開院。
シオカワグループの一員として、インサイドアウトの健康文化を日本に根付かせるため、一人でも多くの人にカイロプラクティックの持つ無限の価値を知っていただくことを使命とし、感謝・感動・希望に溢れる社会の実現を目指している。


