2026.10.02

夜に寝ているのに昼間も眠い。ナルコレプシーと覚醒を保つ仕組み

カテゴリ: 健康通信
夜に寝ているのに昼間も眠い。ナルコレプシーと覚醒を保つ仕組み

「夜はちゃんと寝ているのに、授業中になると強烈な眠気に襲われる。」
「眠ってはいけないと分かっているのに、どうしても起きていられない。」
「朝起きても頭がぼんやりして、十分に眠った気がしない。」

日中に眠気を感じると、「夜更かしをしているのではないか」「睡眠時間が足りないのではないか」と考えがちです。もちろん睡眠不足は日中の眠気を引き起こす大きな原因ですが、十分な睡眠時間を確保しているにもかかわらず、自分の意思では抗えないほど強い眠気が繰り返される場合には、単なる寝不足とは分けて考える必要があります。

その代表的な睡眠障害の一つが「ナルコレプシー」です。ナルコレプシーでは、夜に眠ることができないというよりも、日中に覚醒した状態を安定して維持することが難しくなります。そのため授業や仕事、会話など、本来であれば起きているはずの時間帯にも強い眠気が現れ、眠り込んでしまうことがあります。

ここで知っておきたいのは、「眠ること」と「起きていること」は、単純なスイッチのオンとオフではないということです。私たちの脳では、眠りを促す仕組みと覚醒を維持する仕組みが互いに関係しながら、一日の睡眠と覚醒のリズムをつくっています。夜に何時間眠ったのかだけでは、その人が日中しっかり覚醒していられるかどうかまで説明できない場合があります。

この睡眠と覚醒の切り替えに深く関わっている物質の一つが「オレキシン」です。オレキシンは脳の視床下部にある神経細胞でつくられ、覚醒状態を安定して維持するために重要な役割を担っています。特にナルコレプシーの一部では、このオレキシンをつくる神経細胞の減少が関係していることが知られています。

つまり、ナルコレプシーによる強い眠気は「本人のやる気が足りない」「怠けている」といった問題ではありません。起きていたいという意思があっても、脳が覚醒状態を安定して維持できなければ、本人の努力だけで眠気を抑えることは難しくなります。特に学校生活では、授業中の居眠りとして表面化することで、周囲から誤解されてしまうこともあります。

また、日中の強い眠気は勉強や仕事だけの問題でもありません。集中力が続かない、会話の途中で眠気に襲われる、外出することが不安になるなど、生活のさまざまな場面に影響する可能性があります。思春期であれば、学校生活や友人関係、自信にも影響が広がることがあるため、本人の努力不足として片づけず、必要に応じて睡眠を専門とする医療機関などで適切な評価を受けることが重要です。

では、私たちの脳はどのようにして「眠っている状態」と「起きている状態」を切り替えているのでしょうか。そして十分な時間眠っているにもかかわらず、なぜ日中の覚醒を維持できなくなることがあるのでしょうか。

このコラムでは、ナルコレプシーによる日中の強い眠気を入り口に、睡眠と覚醒を切り替える脳の仕組みと、私たちの身体が一日のリズムをつくる仕組みについて解説していきます。

■私たちの脳は、どうやって眠りと覚醒を切り替えているのでしょうか?

私たちは毎晩眠り、朝になると目を覚まします。あまりにも当たり前に繰り返しているため、「疲れたから眠り、休んだから目が覚める」と考えがちですが、睡眠と覚醒はそれほど単純な仕組みではありません。眠っている間にも脳は活動しており、睡眠をつくる神経と覚醒を保つ神経が互いに働きながら、一日の状態を切り替えています。

脳の中には、眠りを促す神経系と、起きている状態を維持する神経系があります。睡眠を促す神経細胞はGABAなどの物質を使って覚醒に関わる神経活動を抑えます。一方、覚醒に関わる神経細胞は、オレキシン、ヒスタミン、ノルアドレナリンなど複数の物質を介して大脳皮質の活動を支えています。両者が互いを抑制することで、睡眠から覚醒へ、覚醒から睡眠へと比較的速やかに切り替わり、それぞれの状態が安定して保たれています。

この仕組みを理解するうえで重要なのが、「眠れること」と「起き続けられること」は同じではないという点です。夜にある程度の時間眠れていたとしても、日中に覚醒状態を安定して維持する仕組みが十分に働かなければ、強い眠気が現れる可能性があります。ナルコレプシーや特発性過眠症などの中枢性過眠症では、日中に目を覚まして活動するための覚醒機能が低下し、耐え難い眠気や居眠りが生じます。

そこで重要な役割を担っている物質の一つが「オレキシン」です。オレキシンは視床下部の神経細胞でつくられ、覚醒に関わる複数の神経系に作用することで、起きている状態を安定させる働きに関係しています。ナルコレプシー、特に情動脱力発作を伴うタイプでは、オレキシンをつくる神経細胞の減少やオレキシン系の機能低下が深く関係していることが知られています。

そのため、ナルコレプシーによる眠気を「普通の眠気が強くなっただけ」と考えると、この病気の本質を見誤ってしまいます。睡眠不足による眠気であれば、まず不足している睡眠を確保することが重要です。一方、中枢性過眠症では、夜間の睡眠不足だけでは説明できない日中の覚醒維持の難しさが問題になります。

また、ナルコレプシーでは日中の強い眠気だけでなく、大笑いしたり驚いたりしたときに筋肉の力が抜ける「情動脱力発作」、眠りに入るときに身体を動かせなくなる「睡眠麻痺」、入眠時の幻覚などがみられる場合があります。これはナルコレプシーでは単に眠気が強いだけではなく、本来は明確に分かれているはずの覚醒と睡眠の状態が不安定になることを理解する手がかりになります。

もちろん、昼間に眠いからといって、すべてがナルコレプシーというわけではありません。慢性的な睡眠不足、睡眠時無呼吸、体内時計のずれ、薬剤の影響など、日中の眠気にはさまざまな原因があります。そのため、耐え難い眠気が繰り返される場合には、生活習慣だけで判断するのではなく、必要に応じて睡眠を専門とする医療機関で原因を確認することが重要です。ナルコレプシーなどの診断では、夜間の睡眠状態を調べたうえで、日中に眠りにつくまでの時間などを測定する反復睡眠潜時検査(MSLT)が用いられます。

睡眠は「何時間寝たか」だけで決まるものではありません。夜に眠る仕組みと、昼間に覚醒を維持する仕組み、その両方が適切に切り替わることで、私たちは一日の中で眠り、目覚め、活動することができます。ナルコレプシーによる強い眠気を理解するには、眠気そのものだけを見るのではなく、「脳はどのように覚醒状態を維持しているのか」という視点から身体を見ることが重要になります。

■眠気は、脳だけではなく身体の一日のリズムとも関係しています

私たちは時計を見なくても、夜になると眠くなり、朝になると目が覚めます。この一日のリズムをつくるうえで重要なのが「概日リズム」と呼ばれる約24時間周期の生体リズムです。睡眠と覚醒だけではなく、体温やホルモン分泌、自律神経の働きなど、身体のさまざまな機能が時間帯に応じて変化しています。

その中心的な役割を担っているのが、脳の視床下部にある「視交叉上核」です。朝に目から光の情報が入ると、その情報が視交叉上核へ伝わり、身体の時計を外界の昼夜に合わせるための重要な手がかりになります。そして夜になると、体内時計からの情報をもとにメラトニンの分泌が高まり、身体は睡眠に適した状態へと移行していきます。

一方、朝から日中にかけては、ただ「眠気がなくなる」だけではありません。体温やホルモン、自律神経などの働きも時間帯に応じて変化し、身体全体が活動に適した状態へ移っていきます。つまり、私たちが昼間に起きて活動できる背景には、脳の覚醒系だけではなく、身体全体に存在する一日のリズムがあります。

さらに睡眠には、体内時計とは別に「どれだけ長く起きていたか」という要素も関係しています。起きている時間が長くなるほど睡眠への欲求は高まり、十分に眠ることでその欲求は弱くなります。私たちの睡眠と覚醒は、こうした睡眠欲求と概日リズムが組み合わさることで、一日の中の適切な時間に眠り、適切な時間に活動できるよう調節されています。

ところがナルコレプシーでは、単純に「夜に十分眠れば、昼間は眠くならない」という関係が成り立たないことがあります。覚醒状態を安定して維持する仕組みそのものが関係するためです。そのため、睡眠時間だけを見て「これだけ寝ているのだから眠いはずがない」と判断すると、本人が経験している強い眠気を正しく理解できなくなります。

ここで大切なのは、睡眠と覚醒を一つの原因だけで説明しないことです。夜間の睡眠時間、睡眠の質、体内時計、覚醒を維持する神経系など、複数の仕組みが関係しています。そしてナルコレプシーのような睡眠障害では、こうした仕組みの中のどこに問題があるのかを医療機関で適切に評価し、必要な治療を受けることが重要です。

前田カイロプラクティック藤沢院でも、ナルコレプシーそのものを治療したり、オレキシンの働きを直接変えたりすることを目的としているわけではありません。視診、静的触診、動的触診、体表温度測定、レントゲン評価など複数の検査を組み合わせ、脳と身体との情報交換を妨げ、神経機能に影響を与えているサブラクセーション(神経伝達の阻害)がないかを評価します。

自律神経は、心拍や血管、消化、体温など、自分の意思では直接操作できない身体機能の調節に関わっています。また、その働きは一日の中でも一定ではなく、睡眠と覚醒を含めた生体リズムと関係しながら変化しています。ただし、「自律神経が乱れたからナルコレプシーになった」と考えることはできません。ナルコレプシーという疾患の仕組みと、身体全体の神経機能を見ることは分けて考える必要があります。

アジャストメントも、強い眠気を直接止めたり、睡眠障害そのものを治したりするために行うものではありません。神経機能を妨げている要因を取り除き、身体が本来持っている調節機能や「治るチカラ」を発揮しやすい環境を整えることが目的です。

「眠る」と「目覚める」は、毎日自然に繰り返しているように見えて、実際には脳と身体のさまざまな働きが時間軸の中で連動することで成り立っています。だからこそ日中の強い眠気を見るときにも、本人の意思や睡眠時間だけで判断するのではなく、その人の身体が一日の中でどのように睡眠と覚醒を調節しているのかという視点を持つことが大切です。

■授業中だけでなく、日常生活でも強い眠気に苦しんでいた高校生

日中の眠気は誰にでも起こります。しかし、授業を聞いている途中でどうしても目を開けていられない、眠ってはいけない場面でも意識を保てないという状態が繰り返される場合には、単なる寝不足とは分けて考える必要があります。特に学校生活では、本人がどれだけ努力していても「授業中に寝ている」という行動だけが周囲から見えるため、怠けや生活習慣の問題だと誤解されてしまうことがあります。

前田カイロプラクティック藤沢院に来院された高校生も、日中の強い眠気に悩まされていました。夜に睡眠時間を確保していても朝から眠気が強く、授業中には何度も居眠りをしてしまう状態が続いていました。自分では起きていようとしても眠気を抑えることができず、学校生活そのものに大きな影響が出ていました。

医療機関を受診してナルコレプシーと診断され、薬による治療も受けていました。しかし、薬を服用していても強い眠気に悩まされる状態が続き、「寝てはいけない」と意識していても眠ってしまうことが本人にとって大きな負担になっていました。

このような状態を考えるときに重要なのは、「何時間寝ているのか」という数字だけで本人の眠気を判断しないことです。夜間に睡眠時間を確保することと、日中に安定した覚醒状態を維持できることは同じではありません。ナルコレプシーでは覚醒を安定させる仕組みそのものが関係しているため、「もっと早く寝ればいい」「気合いで起きていればいい」という問題ではないのです。

当院では、ナルコレプシーそのものや日中の眠気を直接治療することを目的とするのではなく、視診、静的触診、動的触診、体表温度測定、レントゲン評価など複数の検査を組み合わせ、身体の神経機能を評価しました。検査によって得られた所見を照らし合わせ、脳と身体との情報交換を妨げているサブラクセーション(神経伝達の阻害)がないかを確認していきました。

そのうえで、検査によって必要と判断された箇所に対してアジャストメントを行いました。目的はナルコレプシーを直接治したり、薬の代わりに眠気を抑えたり、オレキシンの働きを操作したりすることではありません。神経機能を妨げている要因を取り除き、身体が本来持っている調節機能や「治るチカラ」を発揮しやすい環境を整えることです。

ケアを継続する中で、日中に感じていた強い眠気や朝の目覚め、授業中の状態などに変化がみられるようになりました。毎日の学校生活の中で、以前よりも起きて過ごせる時間が増え、強い眠気によって制限されていた生活にも変化が現れていきました。

高校生にとって、授業中に起きていられることは単に「居眠りをしない」というだけの問題ではありません。授業の内容を理解すること、友人と同じ時間を過ごすこと、自分の意思で一日の活動に参加することなど、その年代だからこそ経験できる生活そのものにつながっています。

強い眠気が続いているときには、本人の努力不足や生活態度だけで判断せず、まず睡眠障害などが隠れていないか医療機関で適切な評価を受けることが重要です。そのうえで、睡眠時間だけを見るのではなく、睡眠と覚醒を調節している神経系を含め、身体全体の働きにも目を向けることが、その人の状態をより深く理解することにつながります。

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前田 一真

執筆者前田 一真

神奈川県藤沢市出身。1972年に塩川満章D.C.が銀座に開院した塩川カイロプラクティックに内弟子として入り、塩川満章D.C.と塩川雅士D.C.に師事。副院長まで務める。
また日本で最も歴史あるカイロプラクティック学校シオカワスクールでは現役講師を務め、後任の育成にも力を入れている。
2023年5月、カイロプラクティックの最前線である塩川カイロプラクティックで学んだ本物のカイロプラクティックを提供する院として、地元である藤沢の地で「前田カイロプラクティック藤沢院」を開院。

シオカワグループの一員として、インサイドアウトの健康文化を日本に根付かせるため、一人でも多くの人にカイロプラクティックの持つ無限の価値を知っていただくことを使命とし、感謝・感動・希望に溢れる社会の実現を目指している。

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