テレワークで短時間も座れない腰痛。長時間座位で身体に何が起こる?
「以前は何時間でも座って仕事ができたのに、今では30分も座っているのがつらい。」
テレワークやデスクワークを続ける中で、最初は一日の終わりに感じる程度だった腰の重さが、次第に仕事中から気になるようになり、やがて短い時間でも椅子に座っていることがつらくなる場合があります。オンライン会議の途中で何度も姿勢を変えたり、立ち上がったりしなければ腰が落ち着かない状態になれば、仕事への集中にも大きく影響します。
このような腰痛が続くと、「座り方が悪いのではないか」と考えて、椅子やクッションを替えたり、背筋を伸ばして座ろうとしたりする方も多いでしょう。確かに、机や椅子の高さ、パソコン画面の位置など、作業環境によって身体への負担は変わります。しかし、人間の身体にとって大切なのは、ただ一つの「正しい姿勢」を長時間維持することだけではありません。
そもそも人間の身体は、座っている間も完全に静止しているわけではありません。腰や骨盤、股関節、脊柱などを使いながら上半身を支え、そのときの作業や身体の状態に合わせて姿勢を調整しています。つまり「座る」という何気ない行為も、身体にとっては一定の形を保つだけの静的な状態ではないのです。
この視点は、テレワークによる腰痛を考えるうえで重要です。通勤していれば、駅まで歩く、電車を乗り換える、職場内を移動する、昼食へ出るなど、一日の中には自然とさまざまな動作が含まれます。一方、自宅で仕事が完結するようになると、朝から夕方まで同じ場所で過ごし、以前より身体を動かす場面そのものが少なくなることがあります。
だからといって、「長時間座っているから腰痛になる」「テレワークは腰に悪い」と単純に考えることもできません。同じように一日中パソコンを使っていても腰痛をほとんど感じない人もいれば、短時間座ることさえ難しくなる人もいます。また、腰痛があるからといって、とにかく立ったり歩いたりすればよいというものでもありません。
腰痛にはさまざまな背景があり、突然の激しい腰痛、足の著しい筋力低下や麻痺、排尿・排便の異常、発熱などを伴う場合には、速やかに医療機関で評価を受ける必要があります。一方で、医学的に緊急性の高い問題は確認されていないにもかかわらず、以前より座っていられる時間が短くなり、仕事や日常生活まで制限されるようになっている場合には、「どの姿勢が正しいのか」だけでは見えてこない部分にも目を向ける必要があります。
藤沢市で慢性的な腰痛に悩んでいる方の中にも、テレワークが始まってから腰の重さを感じるようになった、以前より長く座れなくなった、椅子を替えても姿勢を意識しても腰痛を繰り返しているという方がいるかもしれません。そんなときには、座ることそのものを問題にするのではなく、座っている間に身体では何が起こり、その状態に身体がどのように対応しているのかを知ることが一つの手がかりになります。
このコラムでは、テレワークで慢性化する腰痛について、長時間座っているときの腰や骨盤の働き、身体が姿勢を調整する仕組み、そして短時間さえ座っていられなくなった身体を考えるうえで大切な視点について解説していきます。
■座っている間、腰や骨盤は本当に「休んでいる」のでしょうか?
椅子に座っている姿勢は、立っているときよりも楽に感じることがあります。脚で体重を支える必要が少なくなるため、「座っている=身体を休ませている」と考えやすいかもしれません。しかし実際には、座っている間も腰や骨盤、股関節、胸郭などは互いに関係しながら上半身を支え続けています。
座位では、骨盤が上半身を支える土台の一つになります。骨盤の上には脊柱があり、その上に頭部があります。そのため、骨盤の傾きが変われば腰椎のカーブや上半身の位置も変化します。反対に、パソコン画面を見るために上半身を前へ移動させれば、それに合わせて骨盤や腰部の状態も変わります。座るという一つの姿勢の中でも、身体の各部は独立しているわけではありません。
さらに、人間は椅子に座った瞬間の姿勢を、そのまま何時間も固定しているわけではありません。少し身体を前へ傾ける、背もたれへ寄りかかる、骨盤の位置を変える、足の置き方を変えるなど、本人がほとんど意識していない小さな動きを繰り返しています。このような姿勢の変化によって、身体の同じ場所へ負担が集中し続けることを避けています。
つまり、座っているときに姿勢を変えたくなること自体を、すぐに「姿勢が悪い」と考える必要はありません。身体にとっては、どれほどきれいに見える姿勢であっても、それを長時間まったく変えずに維持することが必ずしも快適とは限りません。大切なのは一つの理想的な姿勢へ身体を固定することではなく、そのとき行っている作業に合わせて姿勢を変えられることです。
テレワークでは、この「姿勢を変える機会」そのものが少なくなりやすいという特徴があります。職場へ通勤していれば、家から駅まで歩く、電車を乗り換える、席を立って移動する、昼食へ出るなど、仕事とは別のところで身体を動かしています。一方、自宅では通勤がなくなり、仕事を始めてから数時間ほとんど椅子から離れないという生活になることもあります。
ここで注目したいのは、単純な運動量だけではありません。立ち上がるたびに股関節や膝、骨盤、脊柱の位置関係は変わり、歩けば身体には座っているときとは異なる力が加わります。日常の何気ない移動には、同じ姿勢から身体を解放し、さまざまな関節や筋肉を異なる条件で使う機会という側面もあります。
反対に、長時間同じ姿勢が続けば、腰部周辺の筋肉や関節だけでなく、椎間板などの組織にも一定の力が加わり続けます。椎間板は水分を含む組織であり、加わる荷重によって内部の水分移動が起こるため、同じ姿勢を長く続けたあとには脊柱の組織の状態も時間とともに変化します。だからこそ、腰への負担は「姿勢が良いか悪いか」という静止した一枚の写真だけではなく、どの姿勢をどのくらい続け、その間にどれだけ身体を動かしていたのかという時間の要素まで含めて考える必要があります。
また、腰痛を感じ始めると、身体を守ろうとして動きを小さくすることがあります。腰を丸めないようにする、背筋を伸ばした姿勢を崩さないようにする、痛みが出ない位置からできるだけ動かないようにするなど、「良い姿勢を保とう」とすることが、結果として身体を固定することにつながる場合もあります。
もちろん、腰痛がある人に対して「頻繁に動けば腰痛が治る」と一律に考えることはできません。また、特定の座り方だけを腰痛の原因と決めつけることも適切ではありません。腰痛にはさまざまな要因が関係するため、椅子や姿勢を変えるだけですべてを説明できるものではないからです。
それでも、テレワークで腰痛が強くなった身体を考えるとき、「正しい姿勢で座れているか」という視点だけでは十分ではありません。本来、身体は座っている間にも絶えず自分の状態を感じ取り、必要に応じて姿勢や筋肉の働きを変えています。
では、身体は何を手がかりにして、骨盤の位置を変えたり、筋肉の働きを調整したり、姿勢を変えようとしたりしているのでしょうか。次の章では、長時間の座位でも絶えず行われている脳と身体との情報交換という視点から、短時間さえ座っていられなくなる腰痛について考えていきます。
■身体は、座っている姿勢をどのように調整しているのでしょうか?
椅子に座っているとき、私たちは「骨盤をあと少し起こそう」「右側の筋肉を少し緩めよう」と一つひとつ考えながら姿勢を調整しているわけではありません。それでも、身体はわずかに重心を移動させたり、筋肉の働きを変えたりしながら、座っている状態を保ち続けています。
こうした調整を行うためには、まず現在の身体がどのような状態にあるのかを把握する必要があります。筋肉や腱、関節などには、身体の位置や動き、筋肉に加わる力などを感知する仕組みがあり、そこから得られた情報は神経を介して中枢神経系へ送られています。このように、自分の身体がどこにあり、どのように動いているのかを感じ取る働きを「固有感覚」といいます。
たとえば、椅子に座ったまま少し前へ身体を傾けても、通常はそのたびに転倒することはありません。身体の傾きや関節の位置などに関する情報をもとに、必要な筋肉の働きが調整され、姿勢を保っているからです。姿勢とは、骨格を一つの形に固定して完成するものではなく、身体から入ってくる情報に応じて絶えず更新されている動的な状態と考えることができます。
長時間のデスクワークでも、この仕組みそのものが止まっているわけではありません。座面から受ける圧力、骨盤や脊柱の位置、筋肉の状態などは時間とともに変化します。身体はそうした変化を感じ取りながら、姿勢を変えたり筋肉の活動を調整したりすることで、その環境へ対応しています。
長く座っていると、身体を伸ばしたくなったり、椅子へ座り直したくなったりすることがあります。こうした反応は、単なる落ち着きのなさではありません。身体から入ってくるさまざまな感覚をもとに、その時点でより適した姿勢や動きを選択している反応の一つと考えることができます。
反対に、腰痛が続いていると、この姿勢調整にも変化がみられることがあります。痛みのある場所を守ろうとして腰部周辺の筋肉を強く働かせたり、動きを小さくしたり、痛みを感じにくい姿勢を長く選択したりすることがあります。こうした反応そのものは身体を守るために必要な場合がありますが、「腰を動かさないようにすること」と「身体が状況に応じて姿勢を調整できること」は同じではありません。
つまり、慢性的な腰痛を考えるときには、腰にどれほど負担が加わっているのかだけでなく、身体がその負担をどのように感じ取り、どのような姿勢や筋肉の働きを選択しているのかという視点も重要になります。その土台にあるのが、脳と身体との絶え間ない情報交換です。
カイロプラクティックでは、この脳と身体との情報交換に関わる神経機能を重要視しています。前田カイロプラクティック藤沢院では、脳と身体との神経伝達を阻害している状態を「サブラクセーション(神経伝達の阻害)」と捉えています。そのため、テレワークで腰痛があるからといって、「座りすぎだから腰が悪い」「姿勢が悪いから骨盤を起こせばよい」といった一つの情報だけから身体を判断することはありません。
当院では、視診、静的触診、動的触診、体表温度測定、レントゲン評価など、異なる検査から得られる情報を照らし合わせながら身体を評価します。腰痛を感じている場所だけを見るのではなく、関節の動きや筋緊張、体表温度の変化、身体の構造などを確認したうえで、サブラクセーションを見極めていきます。
アジャストメントの目的も、「正しい座り方」を身体へ覚えさせたり、腰痛という感覚を直接取り除いたりすることではありません。サブラクセーションを取り除くことで、脳と身体との情報交換が適切に行われる環境を整え、その人自身の身体が現在の状態を把握し、その時々の環境に応じて調整できる状態を目指します。
人間の身体には、同じ姿勢を永久に保つ能力ではなく、変化する環境に合わせて自らの状態を調整し続ける「治るチカラ」が備わっています。座る、立つ、歩く、横になるといった異なる状況に対して、その都度必要な身体の使い方へ切り替えられることも、日常生活を送るうえで大切な適応の一つです。
だからこそ、テレワークによる腰痛を考えるときに目指すものは、「一日中崩れない完璧な姿勢」ではありません。長時間座らなければならない仕事環境の中でも、身体からの情報をもとに姿勢や動きを調整し、必要になれば立ち上がり、歩き、再び座る。そのような変化へ対応できる身体という視点から腰痛を見ることで、「どの姿勢が悪いのか」だけでは見えてこなかった部分まで考えることができます。
■テレワークで短時間も座っていられなくなった40代女性の症例
今回ご紹介するのは、藤沢市にお住まいの40代女性です。都内の企業に勤めていましたが、テレワークが定着してからは一日10時間以上パソコンの前で仕事をすることも多く、次第に腰の奥に重い疲労感を感じるようになっていました。
最初はクッションを替えたり、ストレッチをしたり、座る姿勢を意識したりしていましたが、一時的に楽になっても腰のつらさを繰り返していました。その後は座っているだけでも腰に違和感を覚えるようになり、やがて立っているときや歩いているとき、寝返りを打つときにも腰痛を感じるようになりました。
整形外科では運動不足による筋緊張性腰痛と診断され、痛み止めや湿布を処方されました。運動も勧められましたが、実際にウォーキングをすると数分で腰痛が強くなったため、「動かすともっと悪くなるのではないか」という不安が強くなり、次第に身体を動かすことも避けるようになっていました。
特に仕事への影響は大きく、短時間座っていることさえ難しくなり、オンライン会議中にも何度も姿勢を変えなければならない状態でした。整体やマッサージも試しましたが、一時的に身体が楽になっても数日すると腰痛を繰り返していたため、当院へ通っていた知人からの紹介で前田カイロプラクティック藤沢院へ来院されました。
当院で複数の検査を行ったところ、骨盤部の関節の動きや腰部の筋緊張、周囲組織の状態、体表温度などに確認すべき所見がみられました。また、レントゲン評価でも骨盤や腰部の構造に、長期間の身体への負担を考えるうえで重要な所見が確認されました。
これらを一つずつ切り離して判断するのではなく、複数の検査結果を照らし合わせながらサブラクセーションを見極め、そのときの身体の状態に応じて必要と判断した箇所へアジャストメントを行っていきました。
ケアを継続する中で、腰の重だるさや身体を動かし始めるときの感覚に変化がみられ、仕事中に座っていられる時間も少しずつ長くなっていきました。その後は、頻繁に姿勢を変えなくてもデスクワークを続けられるようになり、腰痛に意識を奪われず仕事へ集中できる時間も増えていきました。
この女性の場合、テレワークそのものをやめたわけでも、長時間パソコンを使用する仕事がなくなったわけでもありません。それでも、「短時間も座っていられない」という状態から、再び座って仕事を続けられる状態へ変化がみられました。
今回のコラムで見てきたように、座るという姿勢も、身体を一つの形に固定しているだけではありません。実際の症例では、身体にどのような検査所見が確認され、どのような経過を経て座っていられる時間や仕事中の状態に変化がみられたのか。詳しい内容については、実際の症例報告でご紹介しています。
▶短い時間も座っていられないほどの腰痛に悩まされたテレワーク生活の詳しい症例報告はこちら
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執筆者前田 一真
神奈川県藤沢市出身。1972年に塩川満章D.C.が銀座に開院した塩川カイロプラクティックに内弟子として入り、塩川満章D.C.と塩川雅士D.C.に師事。副院長まで務める。
また日本で最も歴史あるカイロプラクティック学校シオカワスクールでは現役講師を務め、後任の育成にも力を入れている。
2023年5月、カイロプラクティックの最前線である塩川カイロプラクティックで学んだ本物のカイロプラクティックを提供する院として、地元である藤沢の地で「前田カイロプラクティック藤沢院」を開院。
シオカワグループの一員として、インサイドアウトの健康文化を日本に根付かせるため、一人でも多くの人にカイロプラクティックの持つ無限の価値を知っていただくことを使命とし、感謝・感動・希望に溢れる社会の実現を目指している。


