仕事と育児で慢性肩こりが抜けない。身体はいつ緊張を解いているのか
仕事中、気づいたら肩が上がっていた。パソコンに集中しているうちに首から肩まで固まり、帰宅するころには「今日も肩が重い」と感じている。それでも家に帰れば、食事の準備や子どもの世話、家事が待っていて、身体を休ませる間もなく一日が終わってしまう。
仕事と育児を両立している方にとって、このような毎日は決して珍しいものではありません。藤沢で慢性的な肩こりに悩んでいる方の中にも、「仕事をしている以上仕方がない」「子どもが小さい間は我慢するしかない」と考えながら生活している方がいるかもしれません。
確かに、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用、子どもの抱っこなどでは、首や肩周辺の筋肉を使い続けることになります。また、仕事上の緊張や時間に追われる生活では、無意識のうちに肩へ力が入ることもあります。
しかし、人間の身体は一日中同じ強さで筋肉を緊張させ続けているわけではありません。物を持つときには必要な筋肉へ力を入れ、作業が終わればその力を緩める。姿勢が変われば働く筋肉も変わり、活動と休息に合わせて身体の状態も絶えず変化しています。
つまり、肩こりを考えるときには「どれだけ肩を使ったのか」という視点だけではなく、使ったあとに身体がどのように緊張を解いているのかという視点もあります。
マッサージを受けた直後には肩が軽く感じるのに、仕事へ戻ると数日でまたガチガチになる。休日に身体を休めたはずなのに、月曜日の朝からすでに肩が重い。夜になっても首や肩から力が抜けた感じがせず、眠っても疲れが残っている。そのような状態では、単純に「肩の筋肉が硬いからほぐせばいい」という説明だけでは捉えきれないことがあります。
筋肉の緊張そのものは悪いものではありません。私たちは筋肉を緊張させることで姿勢を保ち、身体を動かし、仕事や家事を行っています。大切なのは、必要なときに力を入れ、必要がなくなったときには力を緩めるという変化ができることです。
慢性的な肩こりでは、「肩が硬い」という結果だけに目が向きがちですが、その人の身体が仕事中の集中、育児による身体的な負担、休息や睡眠といった異なる状況に合わせて、どのように状態を切り替えているのかまで視野を広げると、肩こりの見え方も変わってきます。
このコラムでは、仕事と育児によって繰り返す慢性肩こりについて、筋肉が緊張したり緩んだりする仕組み、身体が活動と休息を切り替える働き、そして何度も繰り返す肩こりを考えるうえで大切な身体機能の視点について解説していきます。
■肩こりの「ガチガチ」は、筋肉の中で何が起きているのでしょうか?
肩こりが強いとき、「肩の筋肉がずっと力んでいる」「触ると石のように硬い」と感じることがあります。では、私たちが「肩がガチガチ」と表現しているとき、筋肉ではどのようなことが起きているのでしょうか。まず知っておきたいのは、首や肩周辺の筋肉は、腕を大きく動かすときだけ働いているわけではないということです。
私たちが椅子に座ってパソコンを見るだけでも、頭や腕の位置を保つために複数の筋肉が絶えず働いています。頭部を支える首周辺の筋肉に加え、肩甲骨の位置を保つ僧帽筋や肩甲挙筋なども、姿勢に応じて活動しています。キーボードやマウスを操作しているときも、腕そのものは大きく動いていなくても、上肢を一定の位置に保つために筋肉は小さな力を出し続けています。
このように、関節を大きく動かさずに筋肉が力を発揮することを等尺性収縮といいます。重い物を持ち上げるような大きな運動だけでなく、頭や腕を同じ位置に保つことも筋肉にとっては一つの仕事です。そのため、画面を見ながら同じ姿勢を長時間続けていると、「ほとんど動いていないのに肩が疲れる」ということが起こります。
ただし、姿勢そのものを単純に「悪い姿勢だから肩がこる」と決めつけるのは適切ではありません。人間の身体は本来、同じ姿勢を一日中保つようにはできておらず、座る、立つ、歩く、腕を動かすといった変化の中で、その都度使う筋肉を入れ替えながら生活しています。問題になるのは、ある姿勢が絶対的に悪いということよりも、同じ筋肉が長時間にわたって同じような役割を担い続けることです。
育児でも似たことが起こります。子どもを抱っこするときには、腕だけではなく、肩甲骨周辺や体幹の筋肉も使って身体を支えています。さらに、いつも同じ側で抱っこする、前かがみで着替えをさせる、低い位置にある物を扱うといった動作が何度も繰り返されれば、特定の筋肉や関節に同じような負担が集中しやすくなります。
筋肉は、力を入れることと緩めることを繰り返しながら働いています。必要なときに収縮し、役割が変われば活動量を下げ、別の筋肉へ仕事を受け渡していくことで、身体全体として効率よく動くことができます。ところが、同じ姿勢や動作が長時間続けば、特定の筋肉が低い強度であっても長く働き続けることになり、「休ませる時間」が少なくなります。
また、肩こりを感じている場所と、実際に身体の負担を生み出している場所が必ずしも同じとは限りません。首や肩甲骨は胸椎や肋骨、上肢などとも連動して動いています。腕を前へ伸ばせば肩甲骨も動き、振り向けば頸椎だけではなく胸椎も動きます。そのため、慢性的な肩こりを考えるときには、触って硬く感じる筋肉だけではなく、首、肩甲骨、胸郭などがどのように動いているのかまで視野を広げる必要があります。
ここまで考えると、「肩が硬いから揉んで柔らかくする」という方法だけでは、肩こりのすべてを説明できないことが分かります。マッサージによって筋肉の緊張が一時的に和らぎ、心地よく感じることはあります。しかし、仕事や育児へ戻ったときに身体が再び同じ使い方を繰り返せば、同じ場所へ緊張が戻ってくることもあります。
そして、筋肉がいつ働き、いつ緩むのかは、筋肉だけが独自に決めているわけではありません。姿勢や関節の位置、身体に加わる負担などの情報をもとに、神経系が筋肉の活動を絶えず調整しています。つまり「肩の筋肉が硬い」という現象をさらに深く考えるには、筋肉そのものだけでなく、身体が筋肉の緊張をどのように調整しているのかという視点が必要になります。
■筋肉は、どうやって「力を入れる・抜く」を切り替えているのでしょうか?
肩の筋肉が緊張していると、「筋肉そのものが硬くなっている」と考えがちです。しかし、筋肉は自分の意思だけで勝手に収縮したり弛緩したりしているわけではありません。筋肉がどの程度働くのかを調整するためには、神経を介した情報のやり取りが必要になります。
たとえば、重い荷物を持つときには腕や肩周辺の筋肉へ大きな力が必要になりますが、荷物を置けば同じ力を出し続ける必要はありません。パソコン作業でも、キーボードへ手を伸ばす、マウスを動かす、画面を見るために頭の位置を保つなど、その瞬間の動作に応じて必要な筋肉の活動は細かく変化しています。
その調整に必要なのが、身体から送られてくる情報です。筋肉や腱、関節などからは、筋肉がどの程度伸びているのか、関節がどの位置にあるのか、身体がどのような姿勢になっているのかといった情報が神経を介して中枢神経系へ送られています。中枢神経系はそうした情報をもとに、姿勢を保つためにどの筋肉をどの程度働かせる必要があるのかを絶えず調整しています。
つまり、「力を抜く」ということも、単に筋肉が何もしなくなるという意味ではありません。立っているときには完全に全身の筋肉を緩めることはできませんし、椅子に座っているときにも頭や体幹を支えるための活動は続いています。身体はその時々に必要な緊張を残しながら、必要以上の活動を減らし、別の筋肉へ役割を移すことで姿勢や動作を成立させています。
ここに仕事中の精神的な緊張が加わると、話はさらに複雑になります。仕事に集中しているときや時間に追われているとき、重要な場面でプレッシャーを感じているときには、心拍数や呼吸、血圧などとともに身体の状態も変化します。こうした環境の変化への対応には自律神経系も関わっており、「気づいたら肩へ力が入っていた」という反応も、単純に本人が意識的に肩をすくめ続けているだけとは限りません。
大切なのは、緊張すること自体を悪者にしないことです。仕事へ集中するときに身体が活動しやすい状態になることも、子どもを抱き上げる瞬間に筋肉へ力が入ることも、身体に必要な反応です。問題を考えるうえでは、「緊張したかどうか」だけではなく、その状況が終わったあとに身体が次の状態へ適切に切り替わっているのかという視点が重要になります。
仕事を終えても家では育児や家事が続き、ようやく横になれるのは一日の最後という生活では、身体が求められる役割も次々と変化します。本来、身体にはそれぞれの状況に合わせて筋肉の活動や姿勢、身体内部の状態を調整する働きがあります。だからこそ慢性的な肩こりでは、「肩を使いすぎた」という負担の量だけではなく、その負担に対して身体がどのように調整を続けているのかを見ることも大切です。
カイロプラクティックでは、こうした身体の調整に関わる神経機能を重要視しています。前田カイロプラクティック藤沢院では、脳と身体との神経伝達を阻害している状態を「サブラクセーション(神経伝達の阻害)」と捉えています。そのため、肩こりがあるからといって、硬く感じる肩の筋肉だけを見てアジャストメントを行うわけではありません。
視診、静的触診、動的触診、体表温度測定、レントゲン評価など、異なる検査から得られる情報を照らし合わせ、その人の身体がどのような状態にあるのかを評価していきます。肩の筋肉が緊張していることも一つの所見ですが、「硬い筋肉=原因」と決めつけるのではなく、身体全体の中でその緊張がどのように現れているのかを見ることが重要です。
アジャストメントの目的も、肩こりという症状を直接取り除いたり、肩の筋肉を強制的に緩めたりすることではありません。サブラクセーションを取り除くことで、脳と身体との情報交換が適切に行われる環境を整え、その人自身の身体が必要なときに働き、休むときには休むという本来の調整機能を発揮しやすい状態を目指します。
身体には、日々変化する環境へ適応しながら、自ら状態を保ち回復へ向かおうとする「治るチカラ」が備わっています。仕事をなくすことも、育児の負担をすべてなくすことも現実的ではありません。だからこそ、負担そのものをゼロにすることだけを目指すのではなく、その人自身の身体が毎日の変化に対応できる状態にあるかという視点が大切になります。
慢性的な肩こりを考えるとき、「肩が硬い」という結果だけを見るのか、それとも「なぜ身体はその緊張を繰り返しているのか」まで考えるのかで、身体の見え方は変わります。必要なときに緊張し、状況が変われば次の状態へ切り替える。その調整を支えている神経機能まで視野を広げることが、繰り返す肩こりを理解するうえで大切な視点になります。
■仕事が終わっても肩の緊張が抜けなかった40代女性の症例
今回ご紹介するのは、30代の頃から慢性的な肩こりに悩まされていた40代の女性です。仕事では長時間のデスクワークが続き、営業職ということもあって精神的な緊張を感じる場面も多くありました。さらに出産後は仕事に育児や家事が加わり、身体を休ませる時間を十分に取れない生活が続いていました。
肩こりは次第に強くなり、仕事が終わる頃には首から肩にかけて強い張りを感じるようになっていました。さらに肩こりがひどくなると頭痛や吐き気まで感じ、仕事への集中にも影響するようになりました。夜になっても十分に身体が休まった感覚がなく、眠りが浅いうえに、朝起きても疲労感が残る状態が続いていました。
これまでにもマッサージなどを受け、その直後には肩が軽く感じることもありました。しかし、仕事や育児という普段の生活へ戻ると数日で再び肩がつらくなる。その繰り返しから、「仕事をしている以上、肩こりは仕方がない」と半ば諦めていたといいます。
前田カイロプラクティック藤沢院では、肩の筋肉が硬くなっていることだけを見て身体を評価したわけではありません。視診、静的触診、動的触診、体表温度測定、レントゲン評価などを組み合わせ、身体の構造と機能の両面から状態を確認していきました。
検査では、頸椎から上部胸椎にかけて筋肉の強い緊張や関節の動きに確認すべき所見がみられ、体表温度測定でも神経機能に関連する反応が確認されました。こうした一つひとつの所見を単独で判断するのではなく、複数の検査結果を照らし合わせながらサブラクセーションを見極め、必要と判断した箇所へアジャストメントを行っていきました。
ケアを継続していく中で、それまで一日の終わりには当たり前のように感じていた肩の重さや張りに変化がみられ、仕事中に肩こりを意識することも少なくなっていきました。それに伴い、肩こりが強くなったときに感じていた頭痛や吐き気、睡眠や朝の疲労感にも変化がみられるようになりました。
ここで注目したいのは、肩こりが変化するために、この女性が仕事や育児をやめたわけではないということです。身体に加わる負担そのものがすべてなくなったわけではありません。それでも、それまで日常生活を大きく変えずに繰り返していた身体の反応には変化がみられました。
カイロプラクティックでは、肩こりそのものを直接治したり、硬くなった筋肉を強制的に緩めたりすることを目的としていません。サブラクセーションを見極め、神経機能を妨げている要因へアプローチすることで、その人自身が持つ「治るチカラ」を発揮しやすい環境を整えていきます。
仕事中の集中や子どもを抱き上げるときに身体が緊張することは、それ自体が悪いわけではありません。大切なのは、生活の状況が変わったときに、身体もそれに合わせて次の状態へ切り替えられることです。この症例は、「肩が硬い」という結果だけではなく、日々変化する環境に身体がどう対応しているのかまで考えることの大切さを示す一例です。
実際には、この女性の身体にどのような検査所見が確認され、どのような経過をたどって長年の肩こりや日常生活に変化がみられたのか。詳しい内容については、実際の症例報告でご紹介しています。
▶仕事と育児の疲れで悪化した慢性的な肩こりの詳しい症例報告はこちら
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執筆者前田 一真
神奈川県藤沢市出身。1972年に塩川満章D.C.が銀座に開院した塩川カイロプラクティックに内弟子として入り、塩川満章D.C.と塩川雅士D.C.に師事。副院長まで務める。
また日本で最も歴史あるカイロプラクティック学校シオカワスクールでは現役講師を務め、後任の育成にも力を入れている。
2023年5月、カイロプラクティックの最前線である塩川カイロプラクティックで学んだ本物のカイロプラクティックを提供する院として、地元である藤沢の地で「前田カイロプラクティック藤沢院」を開院。
シオカワグループの一員として、インサイドアウトの健康文化を日本に根付かせるため、一人でも多くの人にカイロプラクティックの持つ無限の価値を知っていただくことを使命とし、感謝・感動・希望に溢れる社会の実現を目指している。


