店舗開業後に発症したパニック障害

店舗開業後に発症したパニック障害

薬に頼らず、一人で電車に乗れるまでに回復!

30代女性
来院に至った経緯
高校生の頃から末端の冷えに悩んでおり、夏場でも手足が冷たく感じることがあった。この頃から月経前症候群(PMS)の症状も強まり、生理前になると気分が落ち込んだり、理由もなくイライラしたりと、精神的に不安定になることが多くなった。

大学を卒業し、社会人になってからはデスクワークに就いた。職場では夏になると冷房が強く効いており、末端の冷えがさらに悪化。真夏にもかかわらず、毛布にくるまりながら仕事をするほど冷えを感じるようになっていた。

運動してみようと思い、ピラティスを始めると、手足の冷えが和らぐように感じた。しばらく続けているうちに、10年以上悩んでいた冷えが改善する日が増えてきたことを実感し、思い切ってピラティスインストラクターに転職。

インストラクターの仕事はとても充実しており、気がつけば精神的にも安定し、PMSの症状も気にならなくなっていた。5年間の経験を積んだ後、独立を決意し、自分のジムを開業することになった。開業準備に没頭し、睡眠時間を削りながらも夢に向かって全力を注いでいた。

しかし、開業から1か月が経った頃、突然めまいと吐き気に襲われ、さらに動悸や息切れが激しくなり、ついには倒れてしまった。救急搬送された病院では「過労」と診断されたが、そのときは「少し頑張りすぎただけ」と軽く考えていた。

その後、働き方を見直し、休息を取りながらジムの運営を続けていたが、ある日、電車やバスに乗ると決まって心拍数が上がることに気がついた。この頃には、改善していたはずの末端冷え性やPMSも再発し、次第に一人での外出が怖くなっていった。

不安を感じ、病院で精密検査を受けたところ、不整脈がわずかに見られるものの、脳や心臓には異常はなく、「パニック障害」と診断され、抗うつ薬と抗不安薬を処方された。しばらく薬物療法を試みたが、電車に乗るたびに動悸や息切れが発生し、さらにそれまで経験のなかった頻繁な下痢にも悩まされるようになった。

症状は次第に悪化し、せっかく開業したジムも週に1日開けるのがやっとの状態に。1年以上もこのような状況が続き、「このまま薬に頼り続けても根本的な解決にはならない」と考え、自分で調べて鍼治療や整体などに通い始めた。

「自律神経専門」を掲げる治療院をいくつも訪れたが、どこへ行っても改善の兆しは見られず、症状はむしろ悪化。家族の助けなしでは外出も困難になり、次第に病院や治療院へ行くこと自体が苦痛になっていった。

そんなとき、父の職場の同僚がカイロプラクティックの先生を紹介してくれた。紹介されたカイロプラクティック院のHPを調べると、「自律神経のケアに強い先生」という印象を受けた。

病院では「脳や心臓には異常なし」と言われていたことから、自分でも「自律神経の問題ではないか」と考えており、「ここなら改善できるかもしれない」という希望を抱いて当院を訪れることとなった。


【神奈川県藤沢市から来院】
初診の状態
  • 01

    第一頸椎右横突起と右後頭部に強い浮腫感

  • 02

    頚部右胸鎖乳突筋の過緊張

  • 03

    右上後腸骨棘上端内縁に強い浮腫感

経過と内容
初診時の状態では、右の仙腸関節には明らかな可動域制限があった。体表温度検査では、上部頸椎と骨盤部に明らかに左右の温度の誤差が確認された。また第一頸椎右横突起と右後頭部、右上後腸骨棘上端内縁に強い浮腫が確認され、頚部右胸鎖乳突筋と腰部起立筋は過緊張の状態であった。

レントゲン評価では、腰の椎間板はそれほど慢性的な段階ではなかったが、重度の骨盤の傾きや過前弯で反り腰が確認された。首の椎間板の段階は慢性的なD4レベルが確認され、首の前弯カーブ(前カーブ)は消失して、首の中でS字ができているような状態であった。

初期の施術計画では週2回のケアを推奨したが、来院時には家族の付き添いが必要であり、予定の調整が難しかったため、1〜2週間に1度のペースでケアを開始した。

8週目(5回目のアジャストメント)には、頸部の過緊張が緩和され、寝つきや睡眠の質が向上した。これにより、朝の目覚めがすっきりするようになった。

17週目(11回目のアジャストメント)には、生理前の気分の落ち込みやイライラが軽減し、精神的な安定を感じるようになった。また、長年悩まされていた手足の冷えも以前ほど気にならなくなった。

25週目(15回目のアジャストメント)には、これまで薬を服用していても、誰かと一緒に電車に乗ると動悸や息切れが起こっていたが、この頃には薬を飲まずとも、誰かが一緒にいれば動悸が出なくなった。

34週目(20回目のアジャストメント)には、一人で電車に乗っても動悸や息切れなどのパニック症状が現れなくなり、ついに単独での来院が可能となった。このタイミングで施術の頻度を月に1回へと調整した。

現在は、ほとんどの症状が落ち着いたが、身体のメンテナンスとして定期的なカイロプラクティックケアを続けている。

考察
今回のパニック障害の主な要因は、自律神経のバランスの乱れであり、特に交感神経が過剰に働いていたことが大きく関与していたと考えられる。

パニック障害の発症メカニズムは完全には解明されていないが、神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの異常が関係しているとされる。また、脳の「扁桃体」と呼ばれるストレスや危険を感知する部位の働きが低下することで、体が過剰な興奮状態になりやすくなると考えられている。

今回の検査では上部頸椎と骨盤部に強い異常反応が確認された。これらの部位は副交感神経の支配を受ける領域であり、ここにサブラクセーション(神経機能の異常)が生じることで交感神経が過剰に優位となり、体が常に緊張状態に置かれていたと考えられる。

特に、開業準備による過度なストレスや睡眠不足は、もともと不安定だった自律神経のバランスをさらに崩し、交感神経を過剰に刺激し続けた可能性が高い。

また、動悸や息切れ、不整脈といった症状がみられたが、脳や心臓に器質的な異常がない場合、上部頸椎の問題が関与しているケースが多い。その中でも特に重要なのが迷走神経の働きである。迷走神経は心臓や腸の機能を調整する神経機能であり、ここに負担がかかることで動悸や不整脈の発症リスクが高まると考えられる。

加えて、交感神経の過剰な興奮が腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)を異常に活発化させたことで、本来の消化機能が乱れ下痢を引き起こした可能性がある。通常、副交感神経が優位な状態で腸の働きは適切に調整されるが、交感神経が過剰になることで排出機能が過剰に働いてしまうことがある。

また、末端冷え性も交感神経が過剰に働いている人に特徴的な症状である。交感神経の作用には、末梢血管を収縮させる働きがあるが、これが長期間持続すると血流が低下し、手足の冷えが慢性化してしまう。

月経前症候群(PMS)の症状についても、脳と卵巣をつなぐ神経伝達の異常が関係していたと考えられる。女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンの分泌がうまく調整されないと、気分の落ち込みやイライラなどのPMS症状が悪化しやすい。

人間の精神状態はホルモンの影響を大きく受ける。ホルモンバランスの調整には、卵巣だけでなく副腎や甲状腺、腸内環境も関与しており、これらの内分泌器官と脳をつなぐのが神経である。

今回のケースのように、自律神経が関与する症状が多発している場合には、神経の機能異常を正確に特定し、適切にアプローチすることが何よりも重要になる。交感神経が過剰に働いている状態で、交感神経をさらに刺激する施術を行うと、暴走している車のアクセルをさらに踏み込むような結果となり、逆効果になってしまう。

適切な検査によって問題の神経を特定し、アジャストメントによって神経伝達を正常化したことで、パニック障害をはじめとする多くの自律神経症状が改善したと考えられる。

この症例を通じて、神経の流れを整え、身体の情報を脳に正しく伝えることの重要性を改めて確認することができた。
店舗開業後に発症したパニック障害
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前田 一真

執筆者前田 一真

神奈川県藤沢市出身。1972年に塩川満章D.C.が開院した銀座の塩川カイロプラクティック治療室に内弟子として入る。塩川満章D.C.と塩川雅士D.C.に師事し、副院長まで務める。また日本で最も歴史あるカイロプラクティック学校シオカワスクールでは現役講師を務めており、後任の育成にも力を入れている。2023年5月に地元である藤沢の地で、カイロプラクティックの最前線である塩川カイロプラクティック治療室で学んだ本物のカイロプラクティックを提供する院を実現するため、【前田カイロプラクティック藤沢院】を開院。

笑顔溢れ、心豊かに、幸せな毎日をサポートできるようにカイロプラクターとして尽力している。またシオカワグループの一員として、感謝・感動・希望に溢れる社会を目指している。

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