テニスラケットを握れないほどのジストニア ― テニスプレーを取り戻すまでの回復記録

テニスラケットを握れないほどのジストニア ― テニスプレーを取り戻すまでの回復記録

握る感覚が戻り、再びラケットを振れるように!

30代男性
来院に至った経緯
小学生の頃から大学卒業までテニスを続け、高校時代にはプロを目指して本格的に練習に取り組んでいた。しかし、大学進学を機に一人暮らしを始めた頃から体調に変化が現れ、次第に不調を感じるようになった。

もともと胃腸が弱く、子どもの頃から下痢がちだったが、一人暮らしを始めてからは消化不良や胸やけが頻繁に起こるようになり、下痢の症状もさらに悪化。どんな食べ物を摂っても水のような便が出るようになり、トイレに行く回数が極端に増えた。

また、小児喘息の既往があり、高校生の頃には落ち着いていたものの、大学に入ってからは痰が絡むような咳が頻繁に出るようになった。

大学1年生の頃、授業中にペンを持つと右手の親指に痺れを感じるようになった。また、夕方になると両方のこめかみを締め付けられるような頭痛が頻繁に発生するようになった。

はじめは「疲れのせいかな」と軽く考えていたが、大学2年生になるとテニスのグリップを握る際に違和感を覚えるようになり、しっかりと握れていない感覚が出てきた。練習のしすぎかと思い、休養を取って様子を見ていたが、次第に感覚が鈍くなり、ラケットをスウィングした際に右手の親指に力が入らなくなっていることに気づいた。

この違和感は徐々に進行し、大学3年生になる頃にはラケットを振ると手からすっぽ抜けるようになり、細い物を握ることが困難になっていた。最初は単なる疲労や練習の影響かと思っていたが、不安を感じ病院を受診。

診断は「ジストニアの一種」とされ、レントゲン、MRI、CTなどあらゆる検査を受けたものの「原因不明」と言われ、根本的な治療法も見つからなかった。その結果、テニスのプロを目指す道を諦めるしかなくなった。

大学卒業後は、テニスから完全に離れ、デスクワークの仕事に就いた。しかし、10年以上が経過した現在でも、ペットボトルを持つと右手の感覚が鈍くなり、違和感を覚えることが続いている。会社のテニスサークルでラケットを手に取ることはあるものの、やはりすっぽ抜ける感覚が改善することはなく、同僚から「イップスではないか」と心配されるようになった。

また、子どもがバドミントンを始め、一緒に練習する機会が増えたものの、バドミントンラケットを握っても違和感があり、強く握ろうとしても力が入らないため、思うようにプレーができない。現役時代以上のもどかしさを感じ、「自分の手が思うように動かない」という歯がゆさを強く意識するようになった。

そんなとき、知人が「前田先生の治療を受けたことで手の痺れがなくなった」と聞いた。ジストニアやイップスとは異なる原因かもしれないが、少しでも可能性があるなら試してみたいという希望を抱き、来院を決意した。


【神奈川県藤沢市から来院】
初診の状態
  • 01

    首から肩にかけての過緊張

  • 02

    頸部胸鎖乳突筋の過緊張

  • 03

    正中仙骨稜にスポンジ状の浮腫

経過と内容
初診時の状態では、第一頸椎と第5頚椎には明らかな可動域制限があった。体表温度検査では、上部頸椎と中部頚椎、骨盤部に明らかに左右の温度の誤差が確認された。また第一頸椎右横突起と正中仙骨稜に強い浮腫が確認され、頚部胸鎖乳突筋、そして頚部から肩にかけてと腰部起立筋は過緊張の状態であった。

レントゲン評価では、腰の椎間板の段階は慢性的なD3レベルが確認された。首の椎間板の段階は慢性的なD4レベルが確認され、首の前弯カーブ(前カーブ)は消失してストレートネックとなっており、激しい椎骨の変性が認められた。

初期集中期の段階では週2回のケアを提示したが、仕事の関係で週1回のケアから開始した。

【4週目】(4回目のアジャストメント)
血圧が安定し、それまで上140/下110と高かった値が正常範囲に戻った。また、動悸の症状が解消され、長年悩まされていた痰が絡むような咳もほとんど気にならなくなった。呼吸がスムーズになったことで、日常生活の快適さが向上したと本人も実感していた。

【5週目】(5回目のアジャストメント)
ペンを持つ際に親指が痺れる症状が完全に消失。さらに、夕方以降に頻繁に出ていた頭痛もほとんど感じなくなり、仕事終わりの疲労感も軽減した。また、左に首を倒す際に強い可動域制限があったが、この時点で首の動きがスムーズになり、日常生活の中での違和感が大幅に改善された。

【9週目】(8回目のアジャストメント)
食事の後に感じていた胃もたれや消化不良の症状がなくなり、食事が以前よりも快適に取れるようになった。また、子どもの頃から続いていた慢性的な下痢の頻度が明らかに減少し、腸の調子が安定してきた。これにより、食後に急いでトイレに行くことが減り、生活の質が向上した。

【18週目】(17回目のアジャストメント)
右手の感覚異常が改善し、子どものバドミントンの練習ではラケットを振っても手からすっぽ抜けることはなくなった。また、現役時代ほどの全力プレーではないものの、会社のテニスサークルでは問題なくプレーできるようになり、ラケットを握る際の不安が解消された。本人も「まさかここまで回復するとは思わなかった」と驚きと喜びを口にしていた。

現在は、ほとんどの症状が落ち着き、日常生活にも支障がなくなったが、今後も健康維持のために、定期的なカイロプラクティックケアを継続している。

考察
今回の主訴は「テニスラケットがすっぽ抜けてしまう感覚」であり、来院のきっかけは、知人がカイロプラクティックケアによって手の痺れが改善したことを知ったことだった。

ケアを進める中で、頸椎5番の体表温度や可動域が改善してくると、右手の親指の痺れは回復したものの、グリップのような細い物を持ったときの「手の感覚が鈍くなる」という問題はまったく改善されなかった。このことからも、「右手の感覚が鈍くなる問題」と「右手親指の痺れ」は別の問題であると考えられる。

病院ではジストニアの一種と診断されていたが、ラケットがすっぽ抜ける感覚の原因は第一頸椎のサブラクセーションにあったと考えられる。第一頸椎は脳幹に最も近い椎骨であり、神経機能の調整において極めて重要な役割を果たしている。

第一頸椎のアジャストメントを進めることで、手の感覚異常が徐々に改善し、バドミントンや会社のテニスサークル程度であれば、ラケットがすっぽ抜ける感覚はなくなった。現役時代のように全力で振ることはまだ難しいものの、日常的なスポーツを楽しめるまでに回復したことを考えると、やはり問題の根本は神経の伝達異常にあったと推測できる。

高血圧の問題もあり、特に下の数値が115と異常に高い「拡張期高血圧」だったが、この問題は交感神経が過剰に働き、末梢の血管が収縮している状態だったと考えられる。

実際に施術を進める中で副交感神経の働きが正常化すると、血圧も安定し、高かった下の数値が正常値に戻った。血圧の改善とともに、動悸を感じることもなくなり、痰が絡むような咳もほとんど気にならなくなった。

消化不良や胃もたれの症状も見られたが、これも副交感神経の働きが低下していたことが原因と考えられる。副交感神経は消化器系の機能を調整する重要な役割を持っており、その働きが抑制されると胃の動きが鈍くなり、消化不良や胃もたれが引き起こされる。

施術を続けることで副交感神経のバランスが整い、消化の働きが回復すると、胃の不快感も感じなくなった。

さらに、子供の頃から続いていた下痢の頻度も明らかに減少した。通常、交感神経が過剰に働き続けると腸の蠕動運動が低下し、便が長時間腸内に留まることで水分が吸収され、便秘になることが多い。

今回のケースでは、食事をとってもすぐに水のような便が出てしまい、痛みを伴わない下痢が続いていた。このようなケースでは、副交感神経の過剰な活動が関与している可能性が高い。実際に施術によって神経のバランスが整うと、下痢の頻度が減り、安定した排便ができるようになった。

夕方以降に頻繁に感じていた頭痛についても、交感神経の過剰な働きが原因と考えられる。交感神経が優位な状態が長く続くことで筋緊張が高まり、血管が収縮して頭痛が起こりやすくなる。このタイプの頭痛は緊張型頭痛と呼ばれ、慢性的な交感神経の過活動によって引き起こされることが多い。施術によって神経バランスが整うと、夕方の頭痛はほとんど感じなくなった。

今回のケースでは、ケア開始当初は3か所のアジャストメントを行っていたが、中盤以降は状態が安定してきた部位へのアジャストメントを控え、最も負担のかかっている部位に絞って施術を行うようにした。その結果、体の自己回復力を最大限に引き出し、短期間での改善につながったと考えられる。

この症例は、「ジストニア」や「イップス」と診断された症状でも、神経の圧迫が関与している場合は改善の可能性があることを示しており、適切なアプローチによって回復の余地があることを示した貴重なケースである。
テニスラケットを握れないほどのジストニア ― テニスプレーを取り戻すまでの回復記録
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前田 一真

執筆者前田 一真

神奈川県藤沢市出身。1972年に塩川満章D.C.が開院した銀座の塩川カイロプラクティック治療室に内弟子として入る。塩川満章D.C.と塩川雅士D.C.に師事し、副院長まで務める。また日本で最も歴史あるカイロプラクティック学校シオカワスクールでは現役講師を務めており、後任の育成にも力を入れている。2023年5月に地元である藤沢の地で、カイロプラクティックの最前線である塩川カイロプラクティック治療室で学んだ本物のカイロプラクティックを提供する院を実現するため、【前田カイロプラクティック藤沢院】を開院。

笑顔溢れ、心豊かに、幸せな毎日をサポートできるようにカイロプラクターとして尽力している。またシオカワグループの一員として、感謝・感動・希望に溢れる社会を目指している。

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